2020年3月17日更新

奈良・室生寺(金堂の「みほとけ」編)~室生仏教美術~

金堂内部の五尊像

室生寺(むろうじ)には、奈良・平安・鎌倉と3時代に作成された国宝級の仏像が集まっています。
今回は室生寺の金堂に安置されている仏像についてご紹介します。

「室生寺(由来編)」「室生寺(建物編)」、「室生寺(金堂以外の「みほとけ」編)」も合わせてお楽しみください。

  1. 目次
  2. 国宝・伝釈迦如来立像(薬師如来立像)
  3. 国宝・十一面観音菩薩立像
  4. 国宝・伝帝釈天曼荼羅図
  5. 重文・文殊菩薩立像
  6. 重文・地蔵菩薩立像
  7. 重文・十二神将
  8. 国宝・伝釈迦如来立像(薬師如来立像)

    良縁を結ぶ仏様

    金堂の中尊(ちゅうそん=本尊のこと)である国宝・伝釈迦如来立像(でん しゃかにょらい りゅうぞう)は、もともとは薬師如来として平安時代に造られたもので、なめらかな絹の衣装を連想する朱色の装束は連破式(れんぱしき)※と呼ばれる独特のものです。

    ※連破式:太い波につづいて細い波を2本入れる彫刻の手法

    光背(こうばい)※には、薬師如来が人々を救うために七つの姿に変えて現れるとされる七仏薬師が描かれており、本来、薬師如来として作られたと考えられている由縁です。

    ※光背:仏像の後ろにつける後光(ごこう)のこと

    檜(ひのき)の一木造で、螺髪(らほつ)が額に深くかかり童顔のお姿であることから、平安時代(10世紀後半)の制作と考えられています。

    平安時代以降の薬師如来は薬壺を持っていることが多く、仏像の見分け方も比較的簡単ですが、奈良時代の薬師如来は印(いん)※を結んでいることが多いので、お寺の説明書きを読まずに見分ける事は困難です。

    ※印:印相のこと。仏教において手の指を組み合わせて様々な形をつくり、仏像に意味を持たせること。

    薬師如来のご利益は病気治癒や健康長寿、安産祈願など現世利益です。またお釈迦さまは家内安全、良縁を結ぶ仏様として知られており、健康や人間関係や仕事のご縁を得られる仏様です。

    国宝・十一面観音菩薩立像

    どんな時もあらゆる手立てで救ってくれる仏様

    室生寺 十一面観音菩薩

    伝釈迦如来立像と同様に平安時代の作品である十一面観音菩薩(じゅういちめん かんのんぼさつ)も国宝に指定されており、頭部には喜怒哀楽、様々なお顔の仏様が11体彫られています。

    人々の生活においては、苦しみや楽しみ、悲しみや辛さ、怒りや喜びなど様々な感情が生まれますが、どんな時でもあらゆる手立てをもって救ってくれるお姿を現しているのが十一面観音菩薩です。

    国宝・伝帝釈天曼荼羅図

    稀少価値の高い壁画

    室生寺 帝釈天曼荼羅

    伝帝釈天曼陀羅(でん たいしゃくてん まんだら)は、桧板を5枚組み合わせて描かれており、国宝に指定されています。
    中央には天部(てんぶ)系の三尊を、その周りには天部系の小像98体が描かれており、平安時代前期の作と伝わる、とても稀少価値の高い壁画です。

    天部とは帝釈天(たいしゃくてん)や大黒天(だいこくてん)、毘沙門天(びしゃもんてん)など、天のつく仏様をはじめ、金剛力士や武将神なども天部の仏様です。
    天部の仏様は仏法の守護神や福徳神の意味合いを持ち、現世利益の仏様とされています。

    重文・文殊菩薩立像

    学業成就の仏様

    室生寺 文殊菩薩 金堂

    室生寺の文殊菩薩(もんじゅぼさつ)は重要文化財に指定されています。
    文殊菩薩は右手に剣、左手にお経を持ち、顔が幼く獅子に乗っている姿が一般的ですが、室生寺の文殊菩薩は一般的な特徴を整えていないことから、本来の仏様の名前は明らかになっていません。
    952年創建の醍醐寺(だいごじ)の五重塔と彩色の組み合わせが同じであることから、平安時代(10世紀半ば)の制作と考えられています。
    文殊菩薩は智恵を授けてくれる仏様です。
    「3人寄れば文殊の智恵」のことわざが生まれるいわれとなった仏様で、学業成就の仏様です。

    重文・地蔵菩薩立像

    交通安全・水子供養の仏様

    室生寺 地蔵菩薩

    室生寺の地蔵菩薩(じぞうぼさつ)は、重要文化財に指定されています。
    通常、地蔵菩薩は頭を丸めた修行僧の姿で宝珠(ほうじゅ)※錫杖(しゃくじょう)※を持っていますが、室生寺の地蔵菩薩は錫杖を持たない古式のお姿をしています。
    地蔵菩薩のご利益は無病息災、五穀豊穣、交通安全、水子祈願、安産祈願、先祖菩提、戦勝祈願など様々なご利益があります。

    ※宝珠:先の尖った球形をしている玉。仏の教えの象徴とされている。

    ※錫杖:修験者(しゅげんじゃ)が持ち歩く杖のこと。

    重文・十二神将立像

    12支の守護神を探してみよう

    室生寺 十二神将 酉神

    室生寺の十二神将(じゅうにしんしょう)立像は重要文化財に指定されています。
    鎌倉時代中期の特徴を表す代表作で、自由な姿や表情をしています。

    十二神将は薬師如来の守護神で、十二の大願に応じて、12の時、12の月、12の方角を守るとされており、それぞれ頭に十二支をつけています。
    もともとの姿は夜叉(やしゃ)すなわち悪魔でしたが、仏様と仏法の真理に降伏して善神となった武神です。
    お参りの際には、自らの干支(えと)を探しながら拝観するのも一つの楽しみです。

    金堂以外に安置されている仏像については、「室生寺(金堂以外の「みほとけ」編」でご紹介します。

    「室生寺(由来編)」「室生寺(建物編)」「室生寺(金堂以外の「みほとけ」編」に続く