2019年3月4日更新
七福神「えびす様」の御利益とは?~えびす様は「釣り人」の神様だった~
七福神の中で人気の神様といえば「えびす様」。
えびす様は、商売繁盛、五穀豊穣、大漁祈願、開運招福など、さまざまなご利益のある神様ですが、そもそも、えびす様とはどんな神様なのでしょうか?
「えびす様」は、七福神の中で唯一日本出身の神様ですが、その出生には様々な説があります。有力な説をいくつかご紹介しましょう。
「えびす様」の由来は諸説ある!
1つめの由来:漁師が「蛭子神」を釣り上げた!説
「えびす様」は、日本最古の書物である「古事記(こじき)」の中で「蛭子神(ひるこがみ)」と表記されています。日本神話に出てくる「イザナギノミコト」と「イザナミノミコト」の間に生まれた子どもです。
「蛭子神(ひるこがみ)」は、「イザナギ」と「イザナミ」が結婚する前にできた子どもで、手と足がない蛭(ひる)の姿で生まれてきたため、二人はアマノイワクス船という船に乗せて海に流してしまいます。
それからしばらくたったある時、神戸の漁師が釣りをしていたところ、蛭子神の御神体を釣り上げます。漁師はこれを家に持ち帰り、お供えをして大切におまつりしていたところ、「ここより西の方角にお宮を立てて祀って欲しい」という夢を見ます。漁師はこれを「蛭子神(ひるこがみ)」のお告げだと考え、地元の人々と協力をして西宮神社(にしのみやじんじゃ:兵庫県西宮市)を創建します。ここに祀られた「蛭子神(ひるこがみ)」が「蛭子(えびす)神」となった始まりだというのが一つ目の由来です。
ちなみに西宮神社は、日本全国に3500社ある「えびす神社」の総本社で、地元では「西宮のえべっさん」と親しまれています。
2つめの由来:魚釣りが大好きな「事代主神」=「えびす様」!説
2つめの由来も日本神話に基づきます。
出雲の国譲り(くにゆずり)神話で有名な「大国主命(おおくにぬしのみこと)」の子どもである「事代主神(ことしろぬしのかみ)」という神様イコール「えびす様」であるという説です。
「事代主神(ことしろぬしのかみ)」は、日本神話の中で、魚釣りが大好きな神様として描かれています。
国譲り神話とは、それまで国を治めていた大国主命(おおくにぬしのみこと)が建御雷神(たけみかづちのかみ)に国譲りを迫られた時、美保ヶ崎で漁をしていた息子の事代主神(ことしろぬしのかみ)が答えると言って、自分で回答することをしません。そこで建御雷神(たけみかづちのかみ)が美保ヶ崎へ行き、釣りをしていた事代主神に国譲りを迫ったところ「承知した」と答え、船を傾けて海に身を隠してしまうというお話です。
3つめの由来:海の向こうからやってくる海神が「えびす様」!説
一方、日本の沿岸部には古来より「えびす信仰」という風習があります。
漁民の間で、海から流れてきた漂着物を「エビス」と呼び、神聖なものとしてまつる風習です。
また日本各地の漁村では、クジラのように大きな魚全般のことを「えびす」と呼び、豊漁をもたらす存在として大切に扱われてきました。実際にクジラやイルカ等に追われた魚の大群が海辺に押し寄せられることがあり、漁民にとってクジラやイルカは豊漁を呼ぶ存在でした。
このようにもともと「えびす様」は豊漁をもたらす神様だったのです。
4つめの由来:本当は日本の神様ではない?説
さてこれまで、「えびす様」は七福神の中で唯一日本の神様であると説明してきましたが、「夷」や「戎」という字を当てた「えびす様」がいます。
この漢字の意味を調べてみると、「夷(えびす)」という漢字には「大きく脚を拡げて、弓を引く」という意味があり、「古代中国の東方で弓を引く異民族」を指す言葉だったようです。また「戎(えびす)」は「戈(ほこ)と鎧(よろい)」という意味で、「古代中国の西方の異民族」のことを指す言葉です。海の向こうからやってきたという意味で「えびす」の訓読みとなったのかもしれませんね。
これを聞くと、「えびす様」は外来の神様なのではないかと疑問を持ちますが、いずれにしても「えびす様」は海と関わりのある神様であることは間違いなさそうです。
豊漁をもたらす海神から五穀豊穣、商売繁盛の神様へ
さて、豊漁をもたらす海の神様だった「えびす様」は、いつ頃から五穀豊穣や商売繁盛の神様になったのでしょうか。
日本史では中世以降、商業の発達とともに海運が盛んになったといわれています。港は船の出入りによって商売が繁昌するので、航海の安全は市場繁栄になくてはならないものでした。
また、平安時代末期には、「えびす様」を市神(いちがみ=市場の神)として祀った記録が残っているそうで、鎌倉の鶴岡八幡宮境内で行われた「市」においても「えびす様」を市神として祀ったという記録が残されています。
また農村では田んぼの神様としての「えびす信仰」が全国各地に広がっていきます。
このように商業の発展にともない、農民や漁民、商人さまざまな職種の人達が「市」に集まることにより、海の幸をもたらす漁師達の「海神」としての存在から、航海の守護神、市場の守護神、商売の神様など多くの御利益を与える神様として「えびす様」が誕生したのです。
「えびす講」は「えびす様」を慰めるお祭り
さて「えびす様」のお祭りとして有名な「えびす講」をご存知ですか?
関東ではあまり馴染みがないように思いますが、関西方面ではメジャーなお祭りです。
10月20日もしくは11月20日に開かれる「えびす講」は、えびす様を祀って五穀豊穣や商売繁盛を祈る縁日です。
この「お祭り」、実は「えびす様」を慰めるために行われています。
というのも、毎年10月になると八百万(やおよろず)の神様は島根県にある出雲大社に集まるため、出雲以外の場所から神様がいなくなってしまいます。10月が神無月(かみなしづき または かんなづき)と呼ばれる由縁です。ちなみに出雲地方では10月を神在月(かみありづき)と呼びます。
しかし、全国各地の神様が全員いなくなってしまったら不安ですよね。そこで留守番役の神様として選ばれたのが「えびす様」です。
この留守番役の「えびす様」を慰めるために人々が集まる縁日を開き、1年の無事を感謝するとともに、五穀豊穣、大漁、商売繁盛を願うようになったのが「えびす講」です。
耳が遠い「えびす様」には銅鑼を鳴らして大声でお願いしよう!
主として西日本で行われる「十日えびす」という行事があります。えびす神社の総本社である兵庫県の西宮(にしのみや)神社や大阪府の今宮戎(いまみやえびす)神社が有名です。
毎年1月9日から11日までの3日間行われる「十日えびす」には、100万人を超える参拝客が集まります。
このお祭りの前日、1月8日には卸売市場の若者の威勢の良い掛け声とともに大マグロが奉納され、お祭りの準備が整うといいます。
さて「えびす様」といえば、烏帽子(えぼし)をかぶり、右手に釣竿、左手に鯛を持ち、耳は福耳が特徴です。
ところがえびす様の福耳、耳が悪くてあまりよく聞こえません。
その理由は、商人たちが「商売繁盛」のお願い事ばかりするのを聞いていたからだとか。
商人の町である大阪の今宮戎(いまみやえびす)神社には、耳が遠い「えびす様」独特のお参りの仕方があります。
まずは本殿に手を合わせ「商売繁盛、よろしゅう頼みます」とお願いします。その後、今度は本殿の後ろにまわり、壁にかかっている銅鑼(どら)を「ジャーン」と叩き、「わかってまんな、商売繁盛でっせ」と念押しするのだそうです。
その他、木槌を鳴らしてお願いをする神社もあるようです。
※銅鑼(どら)とは、青銅や鉄などでできた金属製の丸い打楽器のこと。
中国料理などを紹介するテレビにおいて、料理が登場する際に効果音とし
て使われているので、誰しも一度は聞いたことがあると思います。
長々と「えびす様」の誕生の由来を中心に書きましたが、海とは切っても切れない関係の「えびす様」。もともとは漁業の神様だったのですね。
「釣り人」が「えびす様」のご利益にあやかれば釣果を期待できそうです。